ガーデニングや園芸を楽しんでいる人は多い。
自分で丹精こめて育てた植物が成長していく様子を見るのは、とても感動的だ。
何かを作り出すのとはまた違う、自然との共同作業。
そんな魅力に取りつかれた人は多い。
私もかつて、その1人だった。
今住んでいるマンションに移り住んで一番うれしかったのが、ベランダが広かった事。
日当たりが良く、ガーデニングを楽しむ工夫もされていたこと。
以前の住まいは日当たりが悪く、ベランダが狭くて植物がうまく育たなかった。
引っ越してから、いろんな植物を育ててみた。
憧れだった大きなバラやハーブ、そして野菜。
苗からも種からも、やってみたかった事は一通りやってみた。
しかし、マンションが10年を迎えた頃から、
害虫被害が増えていった。
それなりの対策や工夫をしたが、被害は収まらない。
大切に育てている多年草などが次々枯れていく。
それは、鉢の土の中で起こっていた。
鉢替えをすると必ず、不気味な幼虫が沢山出てきた。
それはコガネムシの幼虫だった。
コガネムシの幼虫は、けして土の表面からは見えない。
例え土がカラカラに乾いていても、生き延びるすべを持っている。
カブトムシの幼虫を少し小さくしたような姿で、土に潜んでいる。
植物の根から栄養を取って大きくなっていく。
だから、植物は枯れてしまう。
土替えをしようと、鉢から土を出すたびに、その幼虫の駆除が必要だった。
それは、けして気持ちのいいものではなく、後味も悪い。
一鉢から20匹以上の幼虫が出てきた時は、卒倒しそうになった。
それ以来、自分で鉢の土を替える事ができなくなってしまった。
植物が枯れる度に、夫に処理を頼んでいる。
そうして、大事に育てていた植物はどんどん減ってしまった。
コガネムシの幼虫は、なぜそんなに増えてしまったのだろう?
原因は意外な事だった。
マンションが10年を過ぎて、植栽の木々が立派に育った。
その中のある1種類の木に、コガネムシが集まるようになっていたのだ。
大きくなった木は、コガネムシの好む何かがあるのだろう。
その若葉を食べ、成長し、また子孫を増やす。
我が家のベランダは、その木にとても近かった。
原因が分かった事で、「諦め」がついた。
以前とは事情が変わったのだ。
それに対処し続ける気力が今の自分にはない。
多くの薬剤を使ってまで、美しい花を育てたいとは思えない自分がいた。
それ以降、
鉢が枯れたら、1つずつ減らした。
鉢もどんどん処分した。
今残っているのは、3鉢だけ。
この夏、その中の1鉢も枯れてしまった。
ベランダは寂しくなったけれど、諦めも肝心だ。
鉢を減らした事は、悪い事ばかりではなかった。
ベランダの掃除がとても簡単になったのだ。
このマンションに住んで10数年、今が一番綺麗なベランダかもしれない。
美しい草花は、自然の中に見に行けばいいと、思えるようになった。
植物園だって沢山ある。
植物を育てる楽しみは、また別の機会にとっておこう。
今の環境に、自分も適応させていくことも必要。
出来る時に、出来る事を。
できない時には、諦める。
諦めることで、気持ちが軽くなる事もある。
そんな事が、よくわかった夏だった。